うつ病で働けず、ネットカフェ難民に…底辺へ転落した男性の苦悩

精神
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今回取材させていただいたのは、うつ病を抱えながら生きづらさと闘っているIさん(30代・男性)です。うつ病は気分の落ち込みや意欲の低下など、本人の意思だけではどうにもならない症状を引き起こす厄介な病。Iさんもかつては普通に会社勤めをしていましたが、過酷な労働環境と生活苦が重なった末、心が折れてしまったのだといいます。経済的にも社会的にも追い込まれ、今は「底辺」とも呼ばれかねない暮らしを続ける彼の現状を、赤裸々に語ってもらいました。


仕事と心のバランスが崩れた瞬間

 自分はIと申します。大学を出て、一度は正社員として就職しました。業種は小売業で、最初の頃は新鮮な気持ちで働いていたんです。でも、もともと人付き合いが得意じゃなく、配属先の店舗ではクレーム処理や売上ノルマに追われる日々。休みもほとんど取れず、早朝から深夜までシフトが詰まっていました。

 そんな生活を一年ほど続けた頃、会社からの評価は上がらないのに、身体と心の疲労だけがどんどん積み重なっていったんです。気づけば、「朝起きるのがつらい」「どこにも行きたくない」という気持ちが大きくなり、通勤電車で呼吸が苦しくなることも多くなりました。上司に相談しても「みんな頑張ってる」「根性が足りない」と一蹴され、むしろ追い詰められるばかり。結局、耐えられずに退職を選ぶしかありませんでした。


うつ病と診断されてからの苦悩

1. 医療費と生きづらさ

 退職後に心療内科を受診したところ、「うつ病」と診断されました。最初は「自分がうつ病なんて…」と信じたくなかったです。でも、医師に言われるまま薬を処方され、休養を取らなければならない状況に。貯金はそれほど多くなかったので、毎月の生活費や医療費、薬代はどんどん重荷になっていきました。

 ハローワークに通う気力も湧かず、そもそも朝きちんと起きられない日も多い。身体が重く、頭が働かない。かろうじて自宅で求人情報を眺めても、「こんな状態で働けるわけがない」という自己否定感でいっぱいになります。仮に面接を受けても、自分の声は小さく下向きになりがちで、まともに印象を残せないまま落とされるケースばかりでした。

2. 家族とのぎくしゃくした関係

 実家は遠方にあり、両親にはうつ病のことを伝えづらくて隠していました。何度か電話で会話しても、「早く仕事を探さないのか」とか「甘えているんじゃないか」とか、まるで自分の努力不足を責めるような言葉ばかり。親も悪気があるわけではないのは分かっているんですが、そうした言葉がさらに心を折ってしまいました。

 結果、実家に戻るのをやめて、一人暮らしのアパートにこもり続ける日々。貯金はほぼゼロで、家賃の支払いもままならなくなりました。うつ病の症状はますます悪化し、常に不安や焦りが募るばかり。周囲との連絡は絶ってしまい、誰にも頼れない状況に追い込まれていったんです。


底辺と呼ばれる生活への転落

1. アパート退去とネットカフェ難民

 家賃を滞納して何度も警告を受けましたが、返せる余裕は全くありませんでした。ついには大家さんから「来月までに退去してほしい」と言われ、どうしようもなくなったんです。頼れる友人もおらず、実家に帰ればまた両親と衝突するのが怖い。そこで、夜間パックが比較的安いネットカフェへ移り住むことを選ぶしかありませんでした。

 ネットカフェ生活は、一見すると自由で気楽に見えるかもしれません。でもブースは狭く、常に人の出入りや物音が絶えない場所で、休まらないまま朝を迎えることも少なくありませんでした。かといって、日中はどこへ行くわけでもなく、周囲をうろつくといってもお金がないのでろくに食べることもできない。まさに「何のために生きているのか」が分からなくなる日々です。

2. 日雇いバイトの体力的・精神的限界

 ネットカフェ代をなんとか捻出するために、日雇い派遣のバイトを登録しました。倉庫での仕分けや引っ越し作業など、体力を使う業務が多いのですが、うつ病のせいか集中力が切れやすく、作業ミスを繰り返して現場のリーダーに叱られることもしばしばでした。周囲のスタッフはマイペースで働いている人が多く、私がうまく動けない姿を見て、冷ややかな視線を向けているのを感じます。

 日当が出ても、1日の労働で8,000円から9,000円程度。そこからネットカフェのパック代や食費に充てると、ほとんど余裕は残りません。加えて、体を酷使すると症状が悪化し、翌日は動けなくなることも。結果的に出勤できる日がさらに減り、稼ぎも減るという最悪のループに陥ってしまったんです。


絶望に沈む心と周囲の偏見

1. うつ病への理解不足

 ネット上では「うつ病は甘え」「気持ちの問題」と書かれることも多いですし、私自身、日雇い先の同僚から「ただの怠け者にしか見えない」「根性が足りないだけだろ」と陰口を叩かれているのを感じます。こうした周囲の無理解や偏見が、うつ状態の心にはさらなる重荷となってのしかかるのです。

 実際、うつ病は脳の機能障害とも言われていて、本人の意思や根性だけで治せるわけではありません。もう少し社会が理解を示してくれればと願っても、厳しい現実は変わらず、精神科やカウンセリングの費用も捻出できないまま。症状は悪化の一途をたどっていくばかりです。

2. 自分を責める止まらない思考

 寝る前になると、とくに思考がぐるぐる回ってしまいます。「もしあのとき辞めずに会社に残っていれば」「もっと早く病院に通っていれば」といった後悔や、「こんな自分なんて社会のお荷物」「生きている価値がない」と自責の念にとらわれて眠れないのです。翌日はまた頭が重く、体を起こすのも億劫。何をやってもうまくいかない未来しか見えません。

 周囲との関係が希薄になり、頼れる人もいなくなったことで、余計に孤独感が増します。ネットカフェのブースに閉じこもり、ただスマホを眺めるだけの日々が続いていると、「自分はこのまま底辺の暮らしから抜け出せないのでは」と強く思うようになりました。考えれば考えるほど絶望しか見えず、その空気に押し潰されそうになるのです。


取材者の所感(終わりにかえて)

 Iさんの話は、うつ病と経済的困窮が絡み合い、どれほど生活が厳しい状況に陥るのかを如実に示していました。そもそも、うつ病が進行すれば仕事をこなすのが難しくなり、収入が減って家を失うリスクが高まる。家を失えば安定した治療や休養がままならず、病状はさらに悪化し、就職活動どころではなくなる――。この悪循環に一度はまり込むと、抜け出すのは至難の業と言わざるを得ません。

 ネットカフェや日雇い派遣を行き来して暮らすIさんの姿は、まるでどこにも安住の場所がないかのように見えました。うつ病で心身ともに疲弊しているのに加え、周囲の偏見や冷たい視線が追い打ちをかける。最終的に一人きりで苦悩を抱えるしかなく、苦しい生活がさらに長引く構図が浮き彫りになっています。

 取材を終えた今、私の頭に残っているのは、ネットカフェのカーテンが閉ざされたブースでうつむくIさんの姿です。将来への展望は見えず、彼がこのまま底辺をさまようしかない未来がとても暗く、重くのしかかります。彼のようにうつ病を抱える人たちが社会の底で増えている現実を思うと、胸が苦しくなるばかりでした。

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