ホストクラブの裏側:底辺から抜け出せない男の苦悩と現実

仕事

ホストクラブの世界は、華やかな夜の街の象徴として多くの人々の関心を集める一方で、そこで働く人々の暮らしぶりは意外と知られていないのではないでしょうか。今回、私は経済的にも厳しく、社会的地位も不安定な状況にあるホストの青年に話を伺う機会を得ました。「夜の蝶」ならぬ「夜の王子」のきらびやかなイメージの裏側には、どのような現実が潜んでいるのでしょうか。正直、好奇心や“怖いもの見たさ”があったのは事実です。さらに、人によっては「見下したい」という後ろ暗い感情もあるかもしれません。そんな人間の欲望の入り混じる底辺生活とはどんなものなのか――興味本位ではありますが、その真実に少しでも触れたいと思い、取材を進めました。


ホストとしての生活背景

「高校時代は、なんとなく勉強についていけなくて、そのままアルバイトを転々とする日々でした」

そう話してくれたのは、現在20代半ばのAさん(仮名)です。家庭環境はあまり良くなく、親同士の不和が絶えなかったそうです。大学進学は選択肢になく、高校卒業後は地元の工場に勤めていたものの、人間関係でトラブルを起こして退職。その後は日雇いや派遣社員として細々と生計を立てていました。しかし家賃や生活費がギリギリで、時にはネットカフェ暮らしをすることも。そんな追い詰められた状況の中で、友人に「夜の世界は稼げるらしいよ」と言われ、ホストクラブの世界に足を踏み入れたのだそうです。

「とりあえずすぐにお金が欲しかった。学歴も無いし、昼の仕事だとろくに給料がもらえない。そう思ったとき、友達が『歌舞伎町ならワンチャンあるんじゃない?』って話してくれて、勢いで来ちゃいました」

最初は関西の地方都市から出てきたAさんは、上京資金をほとんど持たず、新宿のネットカフェで寝泊まりをしながらホストクラブを探したそうです。


ホストクラブの現実

華やかに見えるホストの仕事。しかしAさんは、そこには大変厳しい競争やノルマが待ち受けていると語ります。
「お客さんを連れて来れなかったら稼げないどころか、罰金みたいなペナルティがある店もある。とにかく毎月のノルマがキツいんですよ」

Aさんの店も同様で、毎日の営業が終わる度に売上目標や指名本数などが徹底的に数字で管理されます。少しでも目標に届かない時は、先輩や店長から厳しい叱責を受けて肩身が狭くなるとか。店内にも派閥があり、既に売れっ子になった先輩に気に入られるかどうかで立場も大きく変わるそうです。

「夜の世界だから、自分さえ売れればいいって考えの人も多い。互いを助け合うという雰囲気はあまりなく、ライバル意識が強いんです。指名数やナンバー争いで揉めることは日常茶飯事。友人というより敵同士みたいな感覚がずっとあります」

一見華やかな場であるはずのホストクラブですが、その実情は非常にギスギスしており、ひとたび売上が落ちれば店を追い出される危険もあるといいます。さらに、客からの要求に応えるためにドリンクを煽られ、飲みすぎて体調を崩すことも珍しくありません。精神的にも肉体的にも、毎日が消耗戦のような生活です。


日々の悩みと負のスパイラル

収入が不安定であるだけでなく、ホストとしての生活リズムは深夜に及ぶことがほとんど。昼間は疲れを癒やすために眠り、日が沈み始めるころに起きて出勤する生活サイクルは、Aさんの体に負担をかけ続けています。
「最近は胃痛がひどいし、風邪を引いても休めない。体調が悪くても出勤しないと自分の首が絞まるだけだし、店からの圧力もある。まともに病院に行く時間すらないですね」

さらに、生活費やノルマ達成のための店内シャンパン購入費に追われる日々の中で、店に借金をする者も少なくないようです。Aさんは幸いまだ店からの借金はないそうですが、生活費が足りずに消費者金融のカードローンを活用し、その返済がなかなか終わらないとのこと。売れっ子になるためにはとにかく派手に振る舞い、高級シャンパンをお客さんにおろしてもらう“きっかけ”が要る――そう考えて先行投資をするうちに、使えるお金はどんどん足りなくなっていきます。

「結局、店での取り分も高くはないし、派手に振る舞うための分を差し引くと手元にはほとんど残らない。だけど稼ぎを上げるためにはアピールが必要、というジレンマにずっと苦しんでいます」


意外な「心の拠り所」と孤独

そうした厳しい生活の中、Aさんが「少しだけ心が和む」と言うのは、お客さんとの何気ない会話の瞬間です。お酒を通して、互いに弱音を吐き合ったり冗談を言い合ったりして、一時的に人間らしさを感じられるのだとか。とりわけ常連の女性客が、Aさんを気遣う言葉をかけてくれたときは「自分にもまだ居場所があるのかもしれない」と思えて少し救われた気になるといいます。

しかし、そうした人間関係も決して長続きするわけではありません。客の気持ちが離れればそれで終わり。その絆は実は非常に脆く、どこかビジネスライクな繋がりでもあります。家族も友人も深くは関われず、浅いコミュニケーションが多い世界で、Aさんは強烈な孤独感を抱えているようでした。


出口の見えない苦悩

将来へのビジョンを尋ねてみると、Aさんは曖昧に笑いました。
「ホストで成功して、自分の店を持てたらいいなと最初は思っていました。でも、正直今は難しい。毎月の売上もずっと平均を下回っていて、伸び悩んでいます。昼職に戻ろうにも、まともな職歴がなくて採用してもらえるかどうかもわからない。結局、ここで踏ん張るしかないんです」

一部のホストはテレビやSNSで大金を稼いでいるように見えますが、それはごくごく限られた成功者の姿。現実には、借金を抱えたり、体調を崩したりしながら店にしがみつき、なんとか日々をやり過ごす人も多いというのがAさんの正直な気持ちです。「どうせ普通の職に就いたって、この学歴じゃ続かない」という諦念がありながらも、夜の世界にしがみつかざるを得ないのです。


取材者の所感

輝きと闇が同居するホストクラブ。その世界は、華やかな衣装やシャンパンコールの舞台裏で、厳しい数字との闘いや孤独、そして将来への漠然とした不安に耐え続ける人々がいました。私が話を聞いたAさんは、確かに「派手な夜の街の住人」ではありましたが、その生活は地に足がつかず、まるで宙ぶらりんのままもがいている印象でした。

現状を変えたい気持ちはあるものの、望まれる職歴や学歴がなく、明確なスキルも身につけられない。このまま一生夜の世界で生きるのか、それとも何か別の道を探すのか。それを判断する余裕さえ、ホストクラブの厳しい日常が奪っているようにも見えます。

取材を終えて感じるのは、夜の華やかさは一種の幻想で、その裏で人々が抱える苦しみは想像以上に深いということ。そしてAさんにとって、その苦しみは今後も続いていきそうだということです。彼は今日も夜になると店の扉をくぐり、厳しいノルマに追われながら笑顔を作り、自分を奮い立たせているに違いありません。その行き着く先が明るい未来なのか、あるいはさらなる底なしの闇なのか。少なくとも、今の彼の口ぶりからは希望の光を感じ取ることはできませんでした。

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