風俗業のリアル:若い女性が語る夜の底辺暮らしと抜け出せない苦悩

精神

今回は、いわゆる“夜の職業”のひとつである風俗業に従事しているHさん(20代・女性)に取材をさせていただきました。多くの人が一度は耳にしたことのある仕事かもしれませんが、その内情は思いのほか過酷で、いったん足を踏み入れると抜け出しづらいと言われています。華やかなイメージとは裏腹に、そこには金銭や人間関係のトラブルが絶えない世界が広がっていました。果たしてHさんは、どのような経緯でこの業界に入り、どんな葛藤を抱えているのか――。今回、その生々しい実態を語っていただきました。


風俗業に足を踏み入れたきっかけ

 はじめまして、Hと申します。今は某風俗店で働いていて、1日数時間の接客で日銭を稼ぐ日々を送っています。もともとは地方の短大を出て、事務職として就職したんです。しかし上京して一人暮らしを始めてみると、想像以上に生活費がかかる。家賃や光熱費、食費だけで手取りの大半が消えてしまう月もあり、当然ながら貯金なんてできない。

 そんなとき、SNSの広告で「高収入・未経験歓迎」「1日数時間で月収50万円可能」という風俗店の募集を見かけました。最初は半信半疑だったんですけど、口コミを見ると「実際に稼げた」「短期間で借金返せた」などの体験談が目立った。背に腹は代えられず、「ちょっとやってみるだけ」の気持ちで応募したんです。

 面接に行くと、思いのほかすんなり採用が決まりました。制服や送迎などのサポート体制があると聞いて、「これなら安心かも」と安易に考えてしまったのが運の尽きです。初日はものすごい緊張感でしたが、いざ接客をしてみると意外とあっさり高額の報酬が得られてしまった。その瞬間、「こんなに稼げる仕事があるんだ」と衝撃を受けました。


高収入の落とし穴

1. 予想外に膨れ上がる出費

 確かに、日給で見れば驚くほどのお金が手に入るときもあります。しかし、安定しているわけではありません。お客さんがつかない日は売上ゼロですし、逆に指名が重なると一晩で数万円を超えることもある。収入が不安定な分、プライベートの金銭感覚も乱れてきました。

 しかも、風俗店の仕事は身なりが大切と言われます。施術や接客の技術以前に、髪型やネイル、衣装を整えて初めて客ウケが良くなる。競争相手も多いので、「かわいいと思ってもらいたい」「指名をもらいたい」という気持ちが強くなると、ブランド物の化粧品や新しい下着、アクセサリーなどについ手を出してしまいます。最初は「投資」のつもりでも、気づけば出費が収入を上回る月も出てきました。

2. 不規則な生活と体調不良

 私が働いているのはデリバリー型の風俗店なので、深夜に呼び出されることも珍しくありません。昼間は眠って、夕方に起きて身支度して出勤。食事も不規則で、疲れた体を無理に動かしているうちに、体調を崩してしまうことも増えました。

 お客様に合わせて夜通し働く日が続くと、一週間でまともに太陽を見ないときすらあるんです。医者に行くにも昼間は寝ているし、保険証を使うのがちょっと気まずい気持ちにもなる。実家や周囲の友人には「コールセンターの派遣をしている」と言っているので、生活リズムについて詳しく聞かれると困ることが多いですね。


客とのトラブルと心理的負担

1. 過剰な要求やルール違反

 指名してくれるお客さんの中には、紳士的に接してくれる人もいますが、そうでないケースも多々あります。暗黙のルールを破ろうとしたり、強引な要求をしてきたりと、神経をすり減らす場面も少なくありません。それを店側に訴えても「客商売だから我慢して」「厳しそうなら上手くやり過ごして」と言われてしまうことがほとんど。結局、客が強い立場で、こちらは立場が弱いんです。

 危険を感じたとき用の“緊急連絡ツール”があるにはあるんですけど、呼んでもすぐにスタッフが駆けつけられない状況もある。何より店に迷惑をかけたくない気持ちや、報酬を失いたくない気持ちがあって、結局は自分を押し殺して対応してしまうことが多いです。こうしたストレスの積み重ねは、精神をじわじわとむしばんでいきます。

2. 感情のやり場のなさ

 嫌な客に当たった日ほど、帰り道で自分自身が汚れたような気持ちに襲われます。でも、誰かに相談するわけにもいかず、SNSに本音を書くこともできない。風俗で働いていると打ち明けたら、たちまち好奇の目で見られてしまうだろうし、下手をしたら周囲に噂が広がってしまうかもしれない。

 店の同僚と愚痴を言い合うことはあっても、みんな似たような不満を抱えているから話が出口を見つけるわけでもありません。むしろ、お互いの境遇の辛さを比較してしまい、さらに落ち込むことも。いつのまにか夜の繁華街をふらふら歩きながら、「私、これからどうなるんだろう…」という不安が頭を離れなくなるんです。


抜け出せない理由

1. 一度上がった収入水準の魔力

 風俗の仕事に慣れてくると、まとまったお金が手に入る日も増えてきます。普通のアルバイトでは稼げない金額を、短時間で手にできる快感は正直、ものすごく大きい。多くの出費を抱えていても、「最悪、あと数日頑張ればなんとかなる」という安心感があります。

 その結果、「昼の仕事では生活が成り立たない」「月に数十万円の収入を普通の働き方では得られない」という思い込みが強くなり、ますます風俗業から離れづらくなっていくのです。いざ求人情報を見ても、時給1,000円前後の仕事をフルタイムでやっても月に20万円ちょっと。そこから税金や保険料を引かれたら手元にほとんど残らない。その現実を見ると、「結局、夜の仕事に戻るしかない」と考えてしまうんですよね。

2. 借金や高額な出費

 私の場合、最初に風俗業を始めた理由は生活費の不足でしたが、その後もさまざまな支出が増えてしまいました。ショッピングでカードを使いすぎたり、気晴らしにホストクラブに行ったり、同伴やイベントのためのドレスを頻繁に買い替えたり…。一時的にストレス発散しても、後に残るのはリボ払いの請求書ばかりです。

 借金を返済するためにさらに働くという悪循環は、周囲の同僚でもよく見かけます。「今月は厳しいからもう少し出勤しよう」と思ってシフトを増やすうちに体を壊し、結局収入が途絶えて滞納が増えるというケースも珍しくありません。苦しくても働かなければお金は入らないし、働いても止まらない出費。完全に泥沼状態です。


家族や友人に言えない秘密

1. 後ろめたさと孤立感

 私の実家はそこまで裕福ではありませんが、父や母は真面目に働いて子どもを育ててくれました。もし今の自分の姿を知ったら、どんなに悲しむだろうと思うと怖くて言い出せません。周囲に「夜の仕事をしている」と打ち明ければ、軽蔑の目を向けられるんじゃないかという恐怖が常につきまといます。

 実際、学生時代からの友人たちは、昼間の仕事をしながらそれなりにキャリアを積んでいます。結婚したり、子どもを育てたりしている人もいて、まるで違う世界を生きているように思えます。グループで集まる機会があっても、仕事の話になるのが嫌で疎遠になりがち。自然と交友関係は狭まり、孤立していくしかない状態です。

2. 心の拠り所が見つからない

 店の中には、似たような境遇で働いている女の子もいます。中にはシングルマザーや学費を稼ぐ学生など、事情を抱えた人も多い。でも、皆それぞれ自分の生活で手いっぱいだから、助け合えるわけではありません。逆に売上や指名数で競合してしまうから、本音で話し合える相手はほとんどいないのが現状です。

 誰かに苦しみを共有できないまま、日々を過ごすしかない。精神的なサポートを受けたくても、そもそも保険証の関係や時間的な制約で心療内科に通うのも難しい。気づけば「自分の居場所はここしかない」と思い込み、他の世界がどんどん遠のいていく感覚に陥ります。


インタビュアーの所感(終わりにかえて)

 Hさんの話を聞いていると、夜の職業、特に風俗業界が抱える厳しい現実を痛感させられます。一瞬はまとまったお金を手にできることで経済的苦境から脱出したように思えても、そこには不安定な収入や過酷な競争、孤立感と精神的疲労が容赦なくのしかかるのです。そして一度その世界に足を踏み入れると、借金や生活リズムの乱れ、周囲からの目を恐れる気持ちなどが絡み合い、抜け出しづらい悪循環が形成されてしまう――。
 Hさんはまだ若いですが、身体を酷使する生活が続けば健康面のリスクもより深刻になるでしょう。これまでの取材で触れてきた底辺生活の事例と同様、ここから一気に抜け出すのは容易ではないと感じます。彼女自身、「いつかは昼職に戻りたい」と願っているそうですが、その希望が現実になる気配はほとんど見えてきません。むしろ、厳しさが増していく夜の世界に身を沈めながら、日々の出費を稼ぐために苦しむしかない――そんな状況がさらに長引いていく未来を想像すると、胸が締めつけられる思いです。

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