元エリートサラリーマンが語る底辺転落の真実:プライドと地位を失った日常

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エリートサラリーマン」と聞くと、多くの人は高学歴で高収入、社会的にも認められた地位を得ているイメージを抱くのではないでしょうか。ところが、今回取材したXさん(仮名)は、かつてまさにそう呼ばれていたにもかかわらず、今はネットカフェを転々とし、日雇い派遣で細々と暮らしをつないでいます。なぜ、彼ほどの経歴を持つ人間が「底辺」と揶揄される生活に追い込まれてしまったのか。失礼な言い方かもしれませんが、人間にはやはり“怖いもの見たさ”や「どこで躓いたんだろう」という好奇心があります。その本音を隠さず、Xさんに話を聞くことで、エリートからの転落がいかにあっけなく、そして恐ろしいものなのかを目の当たりにしました。


輝かしかったエリート時代

Xさんは子どもの頃から成績優秀で、誰もが知る有名国立大学に現役合格。学生時代には大手企業へのインターン経験を積み、そのまま一流メーカーに就職しました。いわゆる「勝ち組」の道を突き進んだのです。周囲からは将来を嘱望され、人並み以上の給与を得て、好立地のマンションに住み、高価なスーツや時計を身に着ける生活を送っていました。
「自分でも“このまま順調に出世を続けていくのだろう”と、何の疑いも持っていなかったですね」
そう笑顔で語る写真が、まだ彼のスマホには残されています。
会社では海外出張も多く、忙しいながらも誇りを持って働いていたXさん。同期からも一目置かれ、上司からもかわいがられる存在で、まさしく絵に描いたようなエリートだったのです。


転落のきっかけ

転落の始まりは、Xさん自身も気づかない小さな歯車の狂いだったそうです。激務から来るストレスを発散しようと、当時はお酒や趣味に散財することもありました。さらに、職場結婚した奥さんとの関係がうまくいかなくなり、夫婦喧嘩が絶えない日々が続いたといいます。
「仕事を優先しすぎて、家に帰るのは深夜。休日出勤や出張も多く、夫婦の会話らしい会話も無かったですね。そんな中で妻との溝がどんどん深まっていきました」
同僚との付き合いも多く、一時期はキャバクラ通いがやめられなくなっていた時期もあったとか。過度の飲酒や遊興費に加え、夫婦のすれ違いから来る精神的なプレッシャーによって、仕事のパフォーマンスも低下。会社のプロジェクトで致命的なミスを犯したのを機に、社内評価がガタ落ちしてしまいました。
さらに不運なことが重なり、ちょうどその時期に大規模リストラの波がXさんの部署にも押し寄せたのです。企業が早期退職者を募る中、Xさんは「リストラ候補」のリストに名前が挙がり、それまでの業績を考慮しても会社は彼を庇いきれなかったといいます。こうしてXさんは突然、誇りと安定を同時に失いました。妻との離婚も秒読み状態。さらに「安定した高収入」が無くなったことでローン返済に苦しみ始め、あっという間に貯金を食いつぶしてしまったのです。


底辺生活の現状

リストラ後、再就職を目指していくつかの企業の面接を受けるものの、「転職市場は厳しかった」とXさんは語ります。高年収帯であったがゆえに希望年収を下げられず、プライドから零細企業への応募を躊躇してしまう。それでも生活費は待ってはくれません。やむなく家賃の安い部屋を探し回るも、敷金礼金が工面できない状況に追い込まれ、結局ネットカフェ暮らしに落ち着いたのだそうです。
「実家に頼ろうかとも思いました。でも恥ずかしくて帰れないんです。ずっと“できる息子”と信じてくれた両親に、こんな姿を見せられない」
とはいえ、ネットカフェ暮らしも安いわけではありません。宿泊費とシャワー代で一日2000円以上は消え、自炊もできないため食費もかさみます。夜中までパソコンのキーボードを叩く音や、周囲の人のいびきでよく眠れず、疲労はさらに溜まっていくばかり。翌朝、体を引きずりながら日雇い派遣で倉庫の荷下ろしや清掃をする毎日です。そんな生活が続くと、心も体もどんどんすり減っていくのが手に取るようにわかるというのです。


精神的苦悩と周囲の冷淡さ

「元エリート」という肩書がむしろ彼の足を引っ張ることもあるといいます。日雇いの職場では、周囲の作業員たちから「なんであんたみたいなエリートがここにいるの?」と嘲笑されることもあり、逆に距離を置かれてしまうのです。
「同じ底辺暮らしのはずなのに、どうせすぐ辞めるんでしょとか、プライドだけ高そうとか思われるのかもしれません。自業自得とはいえ、それが堪えます」
かつて持っていたプライドや地位が完全に崩れ、今の自分は社会から見下されるだけの存在――。そう意識すると、より一層ふさぎ込んでしまうそうです。かといって、誰かに助けを求めようにも恥ずかしさやプライドが邪魔をして素直になれず、ひとり孤独に苦しんでいると語ります。


抜け出せない理由

「一度自分で転落してしまうと、とにかく信用が無くなるんです。ローンも組めないし、転職活動でも“この年齢でこれだけ経歴に空白があるのはどういうことか”と問われる。面接では過去の栄光と今の姿のギャップが目立って、どこも採ってくれない」
とXさんは語ります。さらに、ネットカフェ暮らしで慢性的に疲労が溜まり、就職活動をする気力も出ない日が多いようです。
「結局その日の食事や宿泊費を確保するために、目先の日雇いの仕事を優先しなきゃならない。まともな面接に行くためのスーツや交通費もバカにならない。手元にお金が無いから何も始まらないし、かといって日雇いを続けていても将来的な改善は見えてこない。完全に負のスパイラルにハマってしまいました」


取材者の所感

目の前のXさんは、かつてのエリート生活を感じさせないほど疲弊しきっていました。声には張りがなく、スマホの画面を時折チェックしてはため息をつく。以前は部下に指示を出し、家族を守る存在だった彼が、今や住む場所さえ定まらず、社会の底辺であえいでいる姿は驚きと同時に恐怖を覚えます。
彼のような高学歴・高収入のサラリーマンが、仕事や家庭の問題ひとつであっという間に転落していく――そんな現実が、私たちのすぐ隣で起こり得るという事実に背筋が冷たくなりました。しかも、このまま再起の糸口を見つけられなければ、Xさんの暮らしは延々と続く負のループの中で朽ちていくかもしれません。成功者と呼ばれた者ほど、いったん落ちると助けを求めにくく、プライドが邪魔をして“底なし”に沈みやすいのだと痛感します。
取材を終えた今も、Xさんはきっとネットカフェの暗いブースで、これからの人生に思い悩みながら夜を明かしているのでしょう。かつての仲間や家族、そして誇りさえすでに失いかけている彼にとって、光が差す道はなかなか見つからないまま。「明日は倉庫の作業員、明後日は引越し屋の手伝い、いつまでこんな生活が続くのだろう」とつぶやく彼の姿が、強く脳裏に焼き付いて離れません。

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